愛の国で

誰にでも、忘れられない人、生涯自分の心の中に生き続けるであろう人が存在すると私は思っている。勿論、私にも”その人”は存在していて、今でもふとした時に心の中、頭の中に蘇る。私にとって、その人は「愛すること」、「愛されること」を身を持って教えてくれた。歓びや悲しみという感情も含めて。
フランスは愛の国だ。フランス人はいくつになっても恋をするし、世間体云々よりも、個人の感情を最優先する。

私は、二度目のフランス生活を始めた最初の頃に”彼”と出逢った。出逢いのきっかけは、インターネット上だった。某SNSで、フランス語上達の為に会話の相手を探していた私と、大学で日本語を学び、同じように会話を上達させたかった彼の目的が一致していたのだった。当然、SNS上で他にも同じ目的を持つ人はいたのだが、私が敢えて彼に会って見ようと思えたのは、載せていた写真に写る誠実そうな瞳に惹かれたからだった。「目は口ほどに物を言う」という諺を私は頑なに信じている。第一印象は瞳から、というのが私の自分なりの物差しなのだ。瞳に輝きがあるか、意思の強さ、感情の豊かさ、大抵は私の判断に間違いはないと自負している。
私が彼と初めて出逢った場所は、パリ店・オペラ地区カプシーヌ店のスターバックスだった。この店は、廃墟になりかけた貴族の館を再利用して建てられた。瀟洒なインテリア、薄暗い重厚感のあるサロン上にはシャンデリアが飾られ、ヨーロッパ特有の室内照明が、シックで荘厳な建物の中に暖かい雰囲気を醸し出していた。
そのサロンで、出逢って間もない私達は何と二時間も話し続けたのだった。彼が日本語を話すという事もあり、私達の話題は尽きる事がなかった。
結局、その後も数回会うことになり、気が付いた頃には彼と一緒の生活を始めていた。

思えば、私のフランス生活は彼の存在によるものが大きかった。
良い思い出ばかりではないが、彼という大きな心の支えに私は守られ、惜しみない愛情を受けていた。
私は現在日本で暮らしているが、私の心の中には常に彼がいて、当時の私達の生活が今でも映像のように浮かび上がる。そして、これからもきっとそうなのだ。
この世界に彼が生きている。そして二人で過ごした場所がある。
そう思うだけで幸福な気持ちになる。そんな特別な人や場所が存在する。
この幸運を、幸福を感謝せずにはいられない。






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